
目次
夏になると、
「蚊に刺されたところがものすごく腫れました」
「虫刺されなのか、何かの感染症なのかわかりません」
「子どもにはどんな虫よけを使えばいいですか?」
といったご相談が増えてきます。
虫刺されはとても身近なものですが、実はその反応にはアレルギーの仕組みが深く関係しています。
また、蚊だけでなく、マダニ、ハチ、トコジラミ、ブユ、毛虫など、夏はさまざまな虫による皮膚トラブルが増える季節です。
今回は、子どもの虫刺されについて、アレルギーの視点も交えながらお話しします。
蚊に刺されると、なぜかゆくなるの?
蚊は吸血するとき、皮膚の中に唾液を注入します。
蚊の唾液には、血液を固まりにくくしたり、血管を広げたりするさまざまな物質が含まれています。
私たちの体はこれらを異物として認識し、ヒスタミンなどの物質を放出します。その結果、
赤くなる・腫れる・かゆくなる
といった、いわゆる「蚊に刺された」反応が起こります。
さらに、蚊の唾液に対するIgE抗体を持っている場合には、IgEと肥満細胞が反応して、ヒスタミンやロイコトリエンなどが放出されます。
最近では、蚊によるかゆみはヒスタミンだけではなく、IL-4、IL-13、IL-31などを介した免疫反応も関係していると考えられています。
子どもはどうして大きく腫れやすいの?
「子どもは蚊に刺されると、大人より腫れやすい気がする」
と感じる方も多いと思います。
蚊に刺されたときの反応は、年齢やこれまでに蚊に刺された回数などによって変化します。
蚊に繰り返し刺されているうちに、免疫反応が変化して、即時反応・遅延反応ともに次第に軽くなることがあります。このような変化はnatural desensitization(自然な免疫寛容)とされています
つまり、まだ蚊に刺された経験の少ない子どもでは、大人よりも強く反応することがあります。
「腫れやすい体質」はあるの?
小児の蚊刺過敏症について調べた研究では、蚊に刺されたあとに大きな局所反応を示す子どもでは、対照群と比べてアトピー素因が多いことが報告されています
アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を持っているお子さんでは、蚊に刺されたときにも強く反応することがあります。
ただし、「アレルギー体質=必ず大きく腫れる」というわけではありません。
蚊に刺されたところがものすごく腫れる「Skeeter syndrome」
蚊に刺されたあと、
- 非常に大きく赤く腫れる
- 強いかゆみがある
- 水ぶくれができる
- 熱を持って痛そう
- ときには微熱を伴う
といった強い局所反応を起こすことがあります。このような反応はSkeeter syndrome(スキーター症候群)と呼ばれます。
2025年に報告された小児15例の研究では、平均年齢は4.4歳で、腫脹は直径5~20cm、水疱・緊満性水疱を73%、かゆみを80%に認めました。また86.6%で反応を繰り返していましたが、いずれも数日で自然に改善していました。見た目がとても赤く腫れるため、蜂窩織炎などの細菌感染症と間違われることがあるのも特徴です。刺された直後~24時間以内に急速に腫れてきたのか、発熱などの全身症状があるのか、時間とともに痛みや赤みが広がっているのか、といった経過をみながら判断します。
「ただの蚊刺され」と考えないほうがよい場合もあります
非常にまれですが、蚊に刺されたあとに、著しい腫れ、水疱や潰瘍、高熱、リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓の腫れ
などを繰り返す場合には、通常の蚊アレルギーとは異なる病気を考える必要があります。特に知られているのが、EBウイルスに感染したNK細胞などが関係する蚊刺過敏症(hypersensitivity to mosquito bites)です。蚊刺過敏症は慢性活動性EBウイルス感染症などのEBV関連リンパ増殖性疾患と関連することがあります。もちろん、普通に「蚊に刺されて大きく腫れた」というだけで心配する必要はありません。ただ、「いつもの虫刺されとは明らかに違う」「高熱を伴う」「水疱や潰瘍になる」「毎回非常に強い反応を繰り返す」といった場合には、一度医療機関にご相談ください。
虫刺されは「刺されないこと」が一番の対策
虫刺されの治療も大切ですが、最も有効なのは虫に刺される回数を減らすことです。そのために活用したいのが虫よけ剤(忌避剤)です。
代表的な成分には、
DEET(ディート)
イカリジン(ピカリジン)
があります。
虫よけ剤は蚊やマダニを殺す薬ではありません。虫が人を感知しにくくすることで、吸血・刺咬を防ぎます。
DEETとイカリジン、どちらがいい?
どちらも有効な虫よけ成分です。DEETとイカリジンを直接比較した研究をまとめたレビューでは、同程度の濃度であれば蚊に対する忌避効果はおおむね同等で、成分そのものより濃度が効果持続時間に影響することが示されています。
イカリジンは、においやべたつきが比較的少なく、プラスチック製品への影響も少ないという特徴があります。
一方、DEETは長い使用実績があり、小児での安全性についても多くのデータがあります。2024年のレビューでも、適切な使用方法を守った場合の安全性は良好とされています。重篤な有害事象の多くは、誤飲や大量・頻回塗布など、通常とは異なる使用方法に関連していました。小さなお子さんでは、製品ごとの対象年齢、濃度、使用回数、使用方法を確認して使うことが大切です。
「できれば天然成分の虫よけを使いたい」というご相談もあります。天然由来の虫よけ成分にも一定の忌避効果を示すものがありますが、効果の持続時間が短いものもあります。つけ直しを忘れないことが大切です。
「天然だから効く・安全」「化学成分だから危険」と単純に分けるのではなく、対象となる虫、年齢、使用する場面に合わせて選ぶことが大切です。
草むらやキャンプでは「マダニ」に注意
マダニは、普段よく耳にする室内のダニとは異なり、野外に生息して動物や人に吸着して吸血する比較的大きなダニです。
日本では多くの種類のマダニが確認されており、特に4~9月にマダニ刺咬が多いことが報告されています。
マダニで注意したいのは、単なる虫刺されだけではなく、
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
日本紅斑熱
ライム病
などの感染症を媒介することがある点です。
野山や草むらへ行くときには、長袖・長ズボンなどで皮膚の露出を少なくし、虫よけ剤を上手に活用しましょう。帰宅したら、シャワーや入浴の際に、頭皮、耳の後ろ、わきの下、足の付け根、膝の裏なども確認してみてください。マダニを見つけても、無理に引っ張らないでください吸血中のマダニは皮膚にしっかりと固定されています。無理に引っ張ると、マダニの一部が皮膚内に残ることがあります。皮膚にマダニが食いついているのを見つけた場合は、無理に取らず医療機関に相談することをおすすめします。
マダニと食物アレルギー?「α-Gal症候群」
少し意外ですが、マダニに刺されたことをきっかけとして、牛肉や豚肉などの哺乳類の肉に対するアレルギーが生じることがあります。
これをα-Gal(アルファ・ガル)症候群と呼びます。マダニ咬傷などをきっかけにα-Galという糖鎖に対するIgE抗体が作られ、哺乳類の肉を食べたあとにアレルギー反応を起こします。一般的な即時型食物アレルギーと違って、肉を食べてから3~6時間程度たって症状が現れることがあるのが特徴です。じんましんだけでなく、アナフィラキシーを起こすこともあります。頻度の高い病気ではありませんが、「夜中に原因不明のじんましんやアナフィラキシーを繰り返す」といった場合には、食事内容やマダニ刺咬歴が診断の手がかりになることがあります。
旅行後に虫刺されが増えたら「トコジラミ」も
近年、旅行や宿泊施設などをきっかけに問題となることがあるのがトコジラミ(bed bug)です。
トコジラミの皮疹だけを見て診断することは難しく、
- 最近ホテルに宿泊した
- 海外旅行をした
- 家族にも同じような皮疹がある
- 朝起きると新しい発疹が増えている
- 寝具の周囲に黒い糞、血痕、抜け殻がある
といった情報が重要です。複数の皮疹が線状・集簇性に並ぶ、いわゆる「breakfast–lunch–dinner sign」がみられることもありますが、皮疹だけで診断するのは難しいことが多いです。
ハチに刺されたときは「局所反応」か「全身反応」かを確認
ハチに刺されたところだけが腫れる反応と、全身に症状が出るアレルギー反応では対応が異なります。
特に、全身のじんましん、顔や喉の腫れ、咳・喘鳴・呼吸困難、繰り返す嘔吐、ぐったりする、意識がおかしい
などがみられた場合は、アナフィラキシーの可能性があります。速やかな対応が必要です。
「何の虫に刺された?」皮疹からわかること
たとえば
マダニ
虫体が皮膚に付着していることが大きな手がかりになります。
毛虫皮膚炎
1~3mmほどの細かい赤いブツブツが、面状・集簇性にたくさん出ることがあります。
・ブユ
中央に出血点や血性のかさぶたを伴い、蚊より痛みや熱感が強いことがあります。
・トコジラミ
睡眠中の露出部に複数出現し、線状・集簇性になることがあります。
・ノミ
足首~下腿に多く、ペットやカーペットなどの環境が手がかりになります。
虫刺されを診察するときには、皮膚の見た目だけではなく、どこで・いつ・どのように刺されたのかがとても重要です。
虫体の有無、皮疹の大きさ、出血点、皮疹の並び方、家族内発症、屋外活動や宿泊歴などを組み合わせて診断していきます。
虫刺されで受診をおすすめしたいとき
虫刺されの多くは自然に改善します。
一方で、腫れが非常に強い、水疱ができている、掻き壊してジュクジュクしている、赤みや痛みがどんどん広がる、高熱を伴う、全身にじんましんが出る、呼吸が苦しそう、マダニが付着しているといった場合には、医療機関への受診をおすすめします。
特に呼吸困難や意識障害など、アナフィラキシーを疑う症状がある場合には、緊急の対応が必要です。
アレルギー専門医からのひとこと
子どもは大人に比べて虫刺されが大きく腫れることもあり、見た目にびっくりすることがあります。
大切なのは、「どのくらい腫れたか」だけではなく、刺されてからの時間経過や全身症状を一緒に見ることです。
そして、虫刺されは「刺されたあとの治療」と同じくらい、刺されないための予防が大切です。
虫よけ剤や服装を上手に活用しながら、外遊びやキャンプ、旅行など、夏ならではの時間を楽しんでください。
虫刺されの腫れやかゆみが強いとき、「いつもの虫刺されと少し違うな」と感じるときは、お気軽にご相談ください。
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